なぜ音読か
ご紹介
世界は、識字率を上げることに力を注いできました。しかし、「読み書きはできるが、本が読めない人々」(経済学者レスター・C・サロー 1999年)と言われるように読解力がついていないのです。今やメール等文字で会話することが多いのに。読解力がないためにトラブルも起きているでしょう。だから、読解力を上げることは喫緊の課題です。
「考える力」の基礎は?

脳は言語を使って考えるといわれます。確かに、自分が考えているときも言葉を使って考えていいます。そう考えると、言語活動が「考える力」の基礎と考えていいのではないかと思われます。
それでは、言語活動の「話す」「聞く」「読む」「書く」のどれを育てれば、考える力の向上につながるのでしょうか。
「話す」「書く」はアウトプット、「聞く」「読む」はインプット。
アウトプットは、今ある知識や理解を基に、言葉を選び、文を作り出して発することです。元の知識・理解がないと伸ばすことは難しいと思われます。
となると、インプットの「聞く」「読む」こそが、「考える力」の基礎となると思われます。ただし、「聞く」は、相手が必要だったり、目に見えない言葉が通り過ぎて行ってしまったりするので、知識・理解を得るには、非効率です。
そう考えると、「読む力(読んで理解する力)」を鍛えることが、「考える力」を高めていくベースになると思われます。
読解力はいつ身に付くのか

大人になっても読解力を高めることはできますが、ベストはいつか。
「AIに負けない子供を育てる」には、科学的にわかっていることとして
1.高校のRST(読解力テスト)能力値の平均とその高校の偏差値には極めて高い相関がある。
2.中学生は学年が上がるに従ってRSTの能力値が全体としては上がる傾向があるが、分散が大きすぎるため、相関係数は0.1程度に留まる。
3.高校生では、全体としても個人としても、RSTの能力値が自然と上がるとはいえない。
また、中学1年入学時のRSTの能力値から、その生徒が3年後にどの偏差値の高校に入学可能か「予知」できてしまう。とありました。
ということは、中高では、読解力がほとんど伸びていないということになります。文字を学習のは、小学校入学してからですので、小学生の時に読解力をつけないといけないということになります。
ただ、読解するためには、その前提となる能力が必要になります。
1,聴解力(聴いて理解する力)がある。
2,ある程度のことばを知っている。
3,ある程度の文を一時的に記憶できる。
4,語順や助詞(「~が」など)理解できている。
1・2については、できれば入学前にたくさん読み聞かせをしたり、話を聞かせたりしてほしいです。ちょっと難しいかなと思うような話でもしていただければと思います。テレビやユーチューブを見せてもなかなかつきません。使われている言葉や場面が限定されで言葉数が少ないからです。
2については、読もうとする文章の半分の言葉を理解していないと、その文章を読んでも理解ができません。
3・4については、音読で鍛えられ、文の作りもわかってきます。繰り返し練習することで、身についていきます。
正しい音読のしかたは?

音読は、声を出してただ読めばいいわけではありません。声を出して読んで文の意味がわからなければ音読ではありません。意味のわかる速さや声の大きさがあります。
特に、文の意味を考えながら読む・読んでから考えることが一番大切です。読みっぱなしではなく、考える癖をつけましょう。誰がなんと言ったか、読んだ内容を少し聞いてみるなどその手助けをご家庭でして頂けるとありがたいです。
理解のための声の大きさは、つぶやく程度の大きさで十分です。大人も黙読して意味が分からないとつぶやくように読みますよね。大きな声は必要ありません。大きく出そうとすると、読むことに意識が行き過ぎ、理解することに意識が行かなくなります。ただ、読めているか確認してもらうには、近くにいる相手に聞こえる声は必要ですね。
読むのが遅すぎたり、たどたどしかったりすると、一つのかたまりとして言葉を捉えられないので、意味が分からなくなります。早すぎると、読むことに全ての意識が行ってしまって理解ができません。個人差はありますが、文を理解する最適な速さがあります。大人は、自分の理解できる速さで読んでいるはずです。
私の計算では100文字で、1.2年は14.8秒~31.0秒、3.4年は14.2秒~29.3秒5.6年は13.6秒~27.6秒の速さがベストのようです。一般的にも400字を60秒読むので、先ほどの速さが適当なのではないかと思われます。
音読は、読解力だけではなく短文などを覚えるのにも優れています。音読をきちんとしている児童は、教科書の文章を覚えてしまいますよね。いい文章を覚えることは、話したり、書いたりするときに役立ってくると思います。
黙読ではいけないのか

小学校1年でひらがなの学習をします。ひらがなを覚えたての児童は、本を読むときに声に出して読みます。そのほうが、内容の理解ができるからです。
私たちも、わからない文章は何回も読み返したり、区切って読んだり、声に出して読んだりします。聞く方が理解できる場合が多いからです。
音読は、
①目で文字を見る
→②脳でその文字を認識する
→③口でその文字を読んで発声する
→④耳から発声した声を聞く
→⑤脳で聞いた文字をある程 度記憶し、まとめて意味 を考える
黙読は、
①目で文字を見る
→②脳でその文字を認識する
→③脳内で文字を読んだ声を聞く
→④脳で聞いた文字をある程度記憶し、まとめて意味を考える見る
幼児は、「耳から聞く→意味を考える」ことで理解してきています。従って、同じ作業の入る音読をすると理解がしやすいのです。音読を十分にして読むこと(見る→文字を認識する→発声する)の負担が小さくなると脳内で聞いただけでも理解できるようになります。これが黙読です。音読は、黙読への架け橋でもあります。
個人差がありますが、4年生ぐらいから黙読の方が使いやすくなっていきます。何回読んでも適度な同じ速さですらすら読めるようなら黙読への移行ができます。
授業で読解力がつく?その1

小学校・中学校・高等学校・大学のある程度教員を続けている人に聞くと、どの年代の教員も読解力が落ちていると言います。私もそう思います。経験を積んで少しは授業がうまくなっているはずなのに読解力を上げられないでいました。
国際成人力調査を見ると、30歳まで読解力が伸び、
30代は読解力が保てています。授業がなくても伸びるということになります。
「AIに負けない子供たちを育てる」には、中学・高校では、RST(読解力テスト)の能力値と学年の相関がほとんどないことがわかっています。(中略・学年が上がっても読解力が上がらないということ)と、あります。少なくとも中高で読解力があまり伸びていないことになりますので、授業でも延びていないことになります。
授業で読解力がつく?その2

読解力は、能力ですから、個人で読み考えることでしか伸ばすことはできません。
小学校の授業中に、読解を行うことはありますが、授業中に読解する時間があるのは、多くて国語・社会で15分程度、総合的な学習の時間で、文章を使って調べるときくらいです。しかも、このような時間が毎回あるわけではなりません。実際には、授業全体の時間からするとかなり少ない時間になります。生成AIが使われるようになるともっと少なくなると思われます。
読解したことを発表しますが、人の発表を聞いて、「そこはそう読むのか」と知識にはなりますが、次に読解するときに生かされることはほぼありません。自分で読んで理解した訳ではないので、読解する能力にはならないのです。
授業では、いろいろな能力を伸ばせるように取り組まれています。やることが多くて、読解はほとんど自然のに内に身に付けていくだろうと考えているようです。ただ、授業では、読解するためにその前提となる次のような能力をつけることができます。
1,聴解力(聴いて理解する力)をつける。
2,語彙を増やす。
3,ある程度の文を一時的に記憶できる。
4,文法を学ぶ。
だから、授業も大事です。授業を大切にしながら、音読によって、家庭で、自分から読解力を身に付けましょう。
ドリル的学習で読解力がつくか
授業で伸ばせないなら、ドリル的な学習で伸ばすことができるのか考えてみました。 1990年代にカリフォルニア州は、全米学力調査において、読解力が全米最下位になり、州当局は1950万ドルの予算をつけて『読解力ドリル』を開発しました。しかし、1996年の読解力テストで最下位。2011年になっても52州中46位。(魔法の読み聞かせ抜粋) RST(リーディングスキルテスト)を毎日ドリルで練習させると、かえって読解力は下がるでしょう。人間のように賢い動物は同じようなことを何度も練習させると、多くの場合、楽だけれども非本質的な解き方を会得します。(AIに負けない子供を育てる)したがって、ドリル的に学習しても読解力はつかないと考えられます。 OECD学習到達度調査(PISA)の読解力の調査結果は下記の通りです。 日本の教育でも、PISA型の問題を意識した学力調査が始まり、練習もしました。しかし、結果は上記の通りやや下がり気味です。ここでもやはり、読解力は、ドリル的に練習しても効果はないことがわかります。これらのことから、本を読むしか読解力を伸ばす方法はないと思われます。
